2011年9月20日火曜日

デヴィッド・シルヴィアン──Blemish と Manafon の間1


デヴィッド・シルヴィアン
『マナフォン』
 (Samadhi Sound:SS 0016/P-Vine:PVCP-8616)
 曲目:1. Small Metal Gods,2. The Rabbit Skinner,
3. Random Acts of Senseless Violence,
4. The Greatest Living Englishman,5. 125 Spheres,
6. Snow White Appalachia,7. Emiley Dickinson,
  8. The Department of Dead Letters,9. Manafon,10.Random
  Acts of Senseless Violence(Remixed by Dai Fujikura)
 演奏:デヴィツド・シルヴィアン(vo, g)
オーストリア:ウィーン
  ブーカルト・シュタングル(g),ヴェルナー・ダーフェルデッカー(b),
  ミヒャエル・モーザー(cello),フランツ・ハウツィンガー(tp),
  クリスチャン・フェネス(laptop, g)
英国:ロンドン
  ジョン・ティルバリー(p),エヴァン・パーカー(sax),
  キース・ロウ(g),マルシオ・マトス(cello),
  ジョエル・ライアン(signal processing)
日本:東京
  中村としまる(no-input mixingboard),秋山徹次(g),
  大友良英(turntables),Sachiko M(sine wave)

  弦楽四重奏団:ジェニファー・K・カーティス(vln),
  ミチ・ウィアンコ(vln),ウェンディ・リッチマン(vla),
  カティンカ・クレイン(cello),藤倉大(編曲)(10のみ)
 解説:高橋健太郎
 発売:2009年9月14日






 ロンドン、ウィーン、東京──歴史的な記憶を堆積する都市の想像力を内部に孕みながら、その最先端に生み落とされたサウンドの数々をマッピングし、相互に交配し、即興演奏であるがゆえに、なおいっそう身体的な生々しさに彩られた感覚地図のうえに、慎重に選び抜いた言葉とメロディーと声を重ね書きしていったのが、デレク・ベイリーと共演した前作『ブレミッシュ』から六年ぶりとなるデヴィッド・シルヴィアンの最新ソロ・アルバム『マナフォン』である。

 おそらくはフェネスのラップトップによって挿入された人声と、うらさびれた楽曲の雰囲気が、フレッド・フリスの映画『ステップ・アクロス・ザ・ボーダー』の一場面を髣髴とさせることになるだろう「Small Metal Gods」に始まり、ポールヴェクセルのメンバーによる即物的なサウンドに、フェネスの発するクリスタルな響きがかすかな情感を与えるタイトル曲「Manafon」まで──日本盤は、藤倉大のリミックスによって現代音楽の臭みを添えた「Random Acts of Senseless Violence」が、ボーナストラックとして収録されている──、サウンド・テクストは入念に編みこまれ、感覚地図のうえのけもの道を歩きまわる太く情感的なシルヴィアンの声は、アルバムすべての楽曲に精緻な読解作業が必要であることを告げている。

 この作品において、即興演奏はとうとう瞬間の神話から解き放たれ、永遠のヴィジョンから輝き出る光のもとに置かれることとなった。そのことを、私たちは、即興が音響になる瞬間と言うこともできるだろう。




[初出:mixi 2010-04-24「David Sylvian:Manafon」]

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■ David Sylvian http://www.davidsylvian.com/