2011年9月28日水曜日

『Do-Chu』発売記念ライヴと小窓ノ王

植村昌弘

小窓ノ王
 ──航2ndアルバム『Do-Chu』リリース記念イベント──
 日時:2010年6月7日(月)
 会場:東京/吉祥寺「MANDA-LA 2」
  (東京都武蔵野市吉祥寺南町2-8-6)
 開場:p.m.6:30、開演:p.m.7:30
 料金:¥2,500+order
 出演:[1]辻隼人(vo, p)
 [2]FIRST MEETING:田村夏樹(tp)、藤井郷子(p)
    ケリー・チュルコ(g)、山本達久(ds)
    飛び入りゲスト:ティム・ゴッドワイアー(as)
 [3]小窓ノ王:航(vo, p)、植村昌弘(ds)
    特別ゲスト:田村夏樹(tp)
 予約・問合せ:TEL.0422-42-1579(MANDA-LA 2)


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 シンガー・ソングライター “航”(こう)のセカンド『Do-Chu』の発売記念ライヴが、ピアノ弾き語りの辻隼人や、田村夏樹/藤井郷子の “ファースト・ミーティング” との対バン形式でおこなわれた。会場は吉祥寺の老舗ライヴハウス MANDA-LA2。

 「鬼殺し」「エリーゼのくせに」「黒髪と沈黙」といったオリジナル曲を歌った辻隼人は、怪鳥の雄叫びを思わせる濁った長い叫びによる感情爆発と、どこかダークな色彩感覚をもった楽曲の組みあわせが印象的なピアノ弾き語りを聴かせた。またオーストラリアから来日中のアルトサックス奏者ティム・ゴッドワイアーを飛び入りゲストに迎え、文字通りのファースト・ミーティングとなったセットでフリー・フォームの完全即興をした田村/藤井のセットは、最初から最後まで、終着点のない激しい音のぶつかりあいになった。

 これら対照的なふたつの演奏の後、トリでステージに立った航は、植村昌弘と組んでいるユニット “小窓ノ王” で新作アルバムに収録されているオリジナル曲を中心に演奏、「GARE」とアンコールの「月の砂漠」の二曲で田村夏樹をゲストに迎え、きっちりとした音楽の輪郭が見える、落ち着いた演奏を披露した。

 小窓ノ王で演奏されたこの二曲においては、田村夏樹の明快なトランペット演奏によるアグレッシヴなソロが、ピアノやドラムを大きくゆり動かし、アンサンブルはよりダイナミックなものとなって、航の音楽世界をさらに大きなものへと押し広げていた。航が、自分の音楽に欠くべからざるものとしている即興演奏によって求めるものは、とてもシンプルでストレートなものだ。それをコンセプチュアルである以上に身体的なもの、自己表現である以上に対話的なものというならば、航の音楽は田村夏樹のそれととてもよく響きあう性格のものであり、ある意味において、ファースト・ミーティングの完全即興よりも、田村の音楽性を引き出す恰好の音楽環境を提供することになっていた。即興演奏にむかうときの初発の動機が、航のなかにきちんとあることが、すべての響きのあらわれをクリアーに聴かせることにつながっているのだろう。ファースト・ミーティングが狙うところも、おそらく本来はそのような即興演奏に対する初発の、原初的な動機を再獲得するところにあるはずだと思われるのだが、にもかかわらず、この晩のライヴに関しては、サウンドの衝突がメンバー間の並行関係を変えることなく最後までつづいていたように感じられた。

 ライヴハウスに置いてある未調整のピアノは、すべてのピアニストの悩みの種であるが、それでも濁ったサウンドのすきまから、航のピアノ弾奏が、リズムやフレーズのパターンより、弦の響きそのものに焦点をあてて生みだされていることがよくわかった。航のピアノ演奏にあっては、あたかも響きのひとつひとつが個性をもつかのように弾かれるといったらいいだろうか。

 このことは、言葉を運ぶ彼女の声の作られ方にも通底していて、彼女の表現にあっては、木目を生かした彫り物細工のような、あるいは江戸切子細工のような、細部をゆるがせにしない職人の感覚を随所で感じとることになる。“小窓ノ王” の盟友である植村昌弘は、こうした航のセンスを生かすのに最適の人選だと思われる。この晩のCDリリース記念ライヴでは、オルガン・サウンドが使われなかったため、残念ながら、別の系譜をなすと思われる航のもうひとつの声を聴くことができなかった。ワンマン・ライヴなどでぜひ聴かせてほしい航の音楽の魅力的な一面である。




[初出:mixi 2010-06-08「小窓ノ王」|本稿は、2010年6月7日におこなわれた航のセカンド・アルバム『Do-Chu』リリース記念イベントを、過去にライヴレポートしたものの転載です。2009年から活動をスタートさせたユニット “小窓ノ王” のファーストCDがリリースされたのにあわせ、タイトル変更のうえ再掲載しました。写真はいずれもミュージシャンから提供されたものです。]

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■ Koya Records[航] http://koh.main.jp/main.html