2011年9月26日月曜日

ESP(本)応援祭 第十回

レコード演奏中の泉秀樹氏と渡邊未帆氏

 9月25日(日)、1960年代のジャズの大転換期に起こった出来事を、ESPレーベルに残された音源を中心に、ミュージシャンの演奏歴を基軸に置きながら、さまざまな文献からひろわれたエピソードの数々などにも触れつつ、実際の音で、聴き手ひとりひとりの耳で、再確認していくという吉祥寺ズミのシリーズ講演<ESP(本)応援祭>の第十回が開催された。渡邊未帆が主催し、泉秀樹がメイン講師を務める本シリーズは、いわばニュージャズの歴史を共有財産とする音楽コモンズを形成するような作業といえるだろうか。

 今回のテーマは「サックス奏者特集」で、アルバート・アイラー(第一回)、フランク・ロウ(第四回)、オーネット・コールマン(第五回)、バイロン・アレン(第五回)といった、これまでに本講座で紹介してきたサックス奏者以外に、ESPレーベルに足跡を残すサックス奏者を次回と2回にわけて特集する。パート1では、ファラオ・サンダース、ジュゼッピ・ローガン、マリオン・ブラウン、チャールス・タイラーを、パート2では、フランク・ライト、ノア・ハワード、マルゼル・ワッツ、ガトー・バルビエリが扱われる予定。

 パート1でかけられたアルバムは以下の通り。

(1)Don Cherry『Don Cherry Unreleased Studio Session 1963-1971』
(Headless Hawk, 1964年1月録音)
(2)Sun Ra『Featuring Pharoah Sanders And Black Harold』
(Saturn, 1964年12月31日録音「12月の4日間」)
(3)Pharoah Sanders『Pharoah Sanders Quintet』
(ESP-1003, 1964年9月20日録音)
(4)Ornette Coleman『Chappaqua Suite』(CBS, 1965年6月15-17日録音)
(5)Marion Brown『Marion Brown Quartet』(ESP-1022, 1965年11月録音)
(6)Burton Greene『Burton Greene Quartet』
(ESP-1024, 1965年12月18日録音)
(7)Marion Brown『Port Novo』(英Polydor, 1967年12月14日録音)
(8)Giuseppi Logan『The Giuseppi Logan Quartet』
(ESP-1007, 1964年10月5日録音)
(9)Patty Waters『College Tour』(ESP-1055, 1966年4月録音)
(10)Charles Tyler『Charles Tyler Ensemble』
(ESP-1029, 1966年2月4日録音)
(11)Charles Tyler『Eastern Man Alone』(ESP-1059, 1967年1月2日録音)

 数年前、長らく消息のしれなかった幻の演奏家で、死亡説まで流れていたジュゼッピ・ローガンが、ホームレス生活をしていたことが発見され、周囲のあたたかな応援によりジャズ界に復帰したことは、記憶に新しいところである。『スウィングジャーナル』誌(2009年9月号)に、「ジャズ版『路上のソリスト』か!? 幻のサックス奏者ジュゼッピ・ローガン 喪失の40年」というレポート記事まで掲載されることになった。

 シリーズ講演を通して、1960年代のジャズが持っていたインターナショナリズムを最大限に評価する視点から、本講演でも、アメリカとヨーロッパの媒介者となったマリオン・ブラウンなどが、最重要の演奏家のひとりにあげられた。

60年代中期、米欧交流の役割を担った人物を挙げると、一人は As ジョン・チカイ、もう一人は Tp ドン・チェリー、それに Vib カール・ベルガーと、As マリオン・ブラウン、Ds スティーヴ・マッコールで5人。…その後の、Pf ポール&Pf カーラ・ブレイ、Ss スティーヴ・レイシーを挙げて8人。少し角度の違うところでは北欧に数年滞在したジョージ・ラッセルが果たした役割も大きく、そこにラッセル門下生 Bass バール・フィリップスを加えると計10人。枚挙の暇はないが数多いミュージシャンの往来があって豊かな自由音楽が醸成されていった。Voice の詩人ジャンヌ・リーもいた。 
(当日配布されたレジュメから)

 <ESP(本)応援祭>の一連の講義が、ESPレーベルの本質を、あるいは当時ニュージャズと呼ばれることになった音楽の本質をどこに見ているかが、詳細なデータの裏づけをもって語られていることがわかるだろう。

 おなじインターナショナリズムの視点に立ち、これは未発表のままだが、やはりこの時期に、多国籍のメンバーが一堂に会することになった重要な結節点の音楽祭に、西ドイツでジャズ評論家ヨアヒム・ベーレントが企画していた「バーデン・バーデン・フリージャズ・ミーティング」(1967年12月16日-18日)があるという指摘がおこなわれた。参考までに参加者のデータをあげると、【アメリカ】ドン・チェリー、マリオン・ブラウン、バール・フィリップス、ジャンヌ・リー、【ドイツ】アルベルト・マンゲルスドルフ、ギュンター・ハンペル、マンフレート・ショーフ、ペーター・ブロッツマン、ペーター・コヴァルト、ブッチ・ニーベルガル、【スウェーデン】スヴェン・オキ・ヨハンソン、【フランス】フランソワ・テュスク、【ベルギー】フレッド・ヴァン・ホーヴ、【オランダ】ピエール・クールボワ、【イギリス】ジョン・スティーブンス、エヴァン・パーカーなど、錚々たるミュージシャンたちが顔を揃えている。
























-------------------------------------------------------------------------------

■ sound café dzumi http://www.dzumi.jp