2011年10月12日水曜日

ペーター・ブロッツマン・トリオ 2010(2)


Peter Brötzmann 2 Days: Super Trios
BRÖTZMANN - HAINO - O'ROURKE
日時: 2010年12月23日(火)
会場: 東京/新宿「ピットイン」
(東京都新宿区新宿2-12-4 アコード新宿 B1F)
開場: p.m.7:30,開演: p.m.8:00
料金/前売: ¥4,000、当日¥4,500(飲物付)
出演: ペーター・ブロッツマン(sax, cl)
灰野敬二(g, 三味線, vo) ジム・オルーク(g)
予約・問合せ: TEL.03-3354-2024(新宿ピットイン)


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 スーパーなメンバーによるトリオが、必ずしも筋の通った演奏をするわけではないという見本が、灰野敬二とジム・オルークという、ふたりの個性的なギタリストをブロッツマンにぶつけた、ツーデイズ二日目の実験的なセットだった。船頭多くして船山に登るというのだろうか、大成功を収めるか、惨憺たる結果に終わるか、これはほとんど博打のようなセッションだったといえるだろう。というのも、メンバー名を見ただけで相性のよさが想像できる “ヘヴィーウェイツ” トリオにくらべ、こちらの実験的トリオは、音楽性において重なるところがないように思えるからだ。

 たしかに個々のプレイヤーがラウドな演奏をすることもあるが、それは周囲の音楽環境が整い、演奏をラウドにするだけの意味があるからラウドになるのであって、たとえば、1980年代のフリージャズ復権に大きく貢献したビル・ラズウェルらの “ラスト・イグジット” のような男臭いサウンドは、このトリオに望むべくもないだろう。

 制作面では、一晩の即興セッションより、グループ・サウンドをテーマにしていたように思える今回のツーデイズ公演で、実験的トリオは、サウンドをまとめるようなことをしたわけではなく、公演は、現代を代表するスター・プレイヤーたちによる贅沢な即興セッションにとどまったように思われる。

 数ヶ月前、ブロッツマンとおなじく、欧州の(フリー)ジャズを代表するハン・ベニンクと灰野敬二による異色セッションを聴いたばかり(2010年9月8日/スーパーデラックス)だが、そのときの印象で、ことリズムに関しては、両者に歩み寄れる余地はないように思われたので、やはり欧州フリーならではの強力なバイオリズムを持つブロッツマンに対して、たとえおたがいが共演者に敬意を払っていても、音楽的にどうそりをあわせるのかがまったくわからなかった。はっきりというなら、そういう小回りのきく器用さを持っているのは、全方位的な音楽を指向しているジム・オルークただひとりだけだった。

 下手に寄せられたピアノの前に椅子を置いて座るジム・オルークと、センターの椅子に座る灰野敬二の間には、おなじギターどうしということもあって、ひとつの演奏場が成立していた。上手側に離れて立つブロッツマンは、ふたりのギタリストが形作るこのサークルに、外野から、どでかいサックス・サウンドの豪速球を投げこんでいくという具合。ブロッツマンの轟音はPAなしでも共演者の耳を直撃し、対照的に、オルークのギター演奏は、実際には、客席への出音をかなりあげないとならないほど小さな音で演奏されている。

 さらに灰野敬二のリズムはリズムではない。音塊の連続というべきである。また第二部後半では、水原弘が歌った名曲「黒い花びら」を、ジャズのようにメロディー・フェイクしながら歌うという意外な側面を見せていたが、声を使ったそうした表現にも、意図されたメッセージがあるわけではなく、おそらくはいずれも強度のあるサウンドとして選択された結果としてあるものなので、本当を言うと、そうした強度をすべて川下に流し去ってしまうリズムは、彼の表現にとって邪魔になるはずなのである。

 この水と油のような音楽性をもつ両雄の間に立ったジム・オルークは、ノイズ的アプローチ、エレクトロニクス風ドローン、カントリー・ミュージックの引用、ミニマルなパルスなどなど、全知全能を傾けて多彩な展開をリードしていった。どんななりゆきになろうと、トリオ・セッションの進行は決して凡庸なものではなかったのである。どういう調子なのか、ときに椅子からひょこひょことからだを浮かせる彼ならではの仕草を見せながら、オルークは他のふたりを多彩な演奏でつないだり切断したりしていく。

 コンサートの最後の場面では、ブロッツマンが好んで吹くアイラー風メロディーが演奏の大団円を告げ、さきに演奏を終えたブロッツマンのあとを追うようにして、ギタリストのふたりはサウンドを美しくまとめてあげていた。

 前半46分、後半50分の演奏のなかで、数々のドラマを描き出してみせるトリオの手腕は堪能できたが、それでもこれは、アンサンブルがひとつの方向性をとることのできない、一期一会の出会いを楽しむ即興セッションであった。初日の “ヘヴィーウェイツ” トリオが、現代においてフリージャズを再措定しようとしたものと評価できるなら、二日目の実験トリオは、豪華メンバーのありえない組みあわせによる一晩だけのお祭りだったように思う。


[初出:mixi 2010-11-28「ペーター・ブロッツマン・トリオ(2)」
大幅な加筆修正のうえ転載]

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直前のお知らせとなりましたが、今年も、イディオレクト(マーク・ラパポート)主催で、恒例のペーター・ブロッツマン来日が実現しました。おなじみのポール・ニルセン・ラヴ、これが初来日という長い活動歴をもつチェロ奏者のフレッド・ロンバーグ・ホルムらによるトリオ編成で、横浜、東京、千葉などでの公演があります。日本サイドのゲストも、灰野敬二、大友良英、八木美知依、本田珠也、ジム・オルーク、坂田明、佐藤允彦といったおなじみの面々。関連企画として、公園通りクラシックスでは、ジム・オルークとロンバーグ・ホルムのデュオ公演も開催されます。(チラシ画像をクリックすると大きなバージョンで印刷情報が読み取れます)

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