2011年10月19日水曜日

BrötzFest 2011(2)


BrötzFest 2011
ペーター・ブロッツマン生誕70周年記念
日時: 2011年10月14日(金)~16日(日)
会場: 東京/新宿「ピットイン」
(東京都新宿区新宿2-12-4 アコード新宿 B1F)
開場: 7:30p.m.,開演: 8:00p.m.
料金/前売: ¥4,500、当日¥5,000(飲物付)
出演: ペーター・ブロッツマン(sax, cl)
フレッド・ロンバーグ・ホルム(cello, g)ポール・ニルセン・ラヴ(ds)
14日: 灰野敬二(g, vo) 大友良英(g)
15日: ジム・オルーク(g) 八木美知依(21絃箏, 17絃箏)
16日: 坂田明(sax, cl) 佐藤允彦(p) 
予約・問合せ: TEL.03-3354-2024(新宿ピットイン)


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 クインテットの組合わせによる集団即興からデュオまでというアンサンブルの多様性を、“シカゴ・テンテット” の呼び方にならって、日にちをずらして集まった “ペーター・ブロッツマン・トーキョー・ノネット” として考えるのも一興だろう。それというのも、日替わりゲストとなった日本人ミュージシャンたちは、坂田明がジム・オルークと共演し、灰野敬二が八木美知依と共演しているように、彼ら自身がさまざまな糸で縦横に結ばれているからである。

 それはちょうど、11月に開催されるヴェルスの第25回<ミュージック・アンリミテッド音楽祭>で、やはりペーター・ブロッツマンの生誕70周年を祝う「ロング・ストーリー・ショート」が公演され、ブロッツマンが日本ツアーで共演してきた演奏家たちが、これまで彼の演奏歴を飾ってきたミュージシャンたちや、シカゴ・テンテットを構成するメンバーなどとともに、渾然一体となったステージをくりひろげることになっているからである。むしろこの日本公演は、ヴェルス公演の前哨戦といったほうがいいくらいなのである。周知のように、1960年代、爆発的に花開いたときから、ニュージャズ/フリージャズと呼ばれるこの音楽は、国境を越えたインターナショナルな演奏家たちのネットワークを、その最大の活力源にしてきたのであって、それはかつてニューヨークで客死した故ペーター・コヴァルトが両肩に担い、いまではブロッツマンのような演奏家によって受け継がれている伝統なのである。目の前でくりひろげられる好カードの即興セッションは、その場かぎりのものではなく、その背後で世界へとつながっている。そのような想像力を養うことが求められているのではないだろうか。

 全編フリージャズで押しまくっているようでいて、各日ごとに特色を出した<ブロッツフェス 2011>の雰囲気の違いを知ろうと思うなら、各セッションのコンビネーションの妙だとか、演奏のよしあしを云々するよりも、単純に、その日のアンコールになにが演奏されたかを見るのがいいのではないかと思う。改めて抜き書きすれば、初日は、ブロッツマンと灰野敬二のデュオ、中日は、トリオにジム・オルークと八木美知依を加えた全員参加のクインテット、そして最終日は、ブロッツマンに坂田明と佐藤允彦の日本勢を配したトリオである。

 初日の両雄対決は、言うまでもなく、お山の大将の一騎打ちであり、元々の灰野の希望に配慮して、マッスなサウンドを放出するリズム陣を排して直接対話を実現したもの。かたやメンバー全員が参加した中日の集団即興は、長いふたつのセッションをこなしたあとの演奏で、八木の演奏にぴたりとつけるニルセン・ラヴのドラミングには無駄がなく、「合わせる」とか「煽る」とかいう以上のもの、ゲスト奏者の手の内を知りつくし、しばし主人公をブロッツマンから八木へ移すようなあざやかなものだった。八木とオルークが持つサウンドのカラフルさは、トリオの演奏のエネルギーを一滴も損なわずに、音楽を豊かなものにしていた。そして最終日、日本のニュージャズ/フリージャズの重鎮である坂田明、佐藤允彦のふたりが、ブロッツマンとガチンコ対決するトリオ・ミュージックは、抜群のスタイル感覚を持った佐藤允彦のピアノが、強力な打鍵をもって、有無を言わさずに楽曲構造を与えるなかでの全力疾走という感じだった。それは演奏の余白に真実があるというような演奏、本編ではいまだ弾かれていなかったものの領域へはみ出していく出口というような演奏ではなく、その場がアンコールであることを説明するような演奏だったのである。ピアニストならではの取りまとめ方といったらいいだろうか。

 初日にはエレクトリックな若い感覚があり、中日には一面の花畑を見るような幻惑があり、最終日には、ちょっとやそっとでは驚きもしない老獪さがあった。もちろん彼なりの固有性においてではあるのだが、ペーター・ブロッツマンの演奏は、この3つの側面のどれにもこたえるような多面体になっているということなのだろう。ガラスの切子細工のように、ある方向から光が入ると、この側面のなかのどれかが光を反射して輝くのである。■

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