2011年10月20日木曜日

Chicago in Tokyo


Chicago in Tokyo
フレッド・ロンバーグ・ホルム&ジム・オルーク
日時: 2011年10月19日(水)
会場: 東京/渋谷「公園通りクラシックス」
(東京都渋谷区宇田川町19-5 東京山手教会B1F)
開場: 7:00p.m.,開演: 7:30p.m.
料金: ¥3,000(飲物付)
出演: フレッド・ロンバーグ・ホルム(cello, 4 strings guitar)
ジム・オルーク(p)
予約・問合せ: TEL.03-3464-2701(公園通りクラシックス)


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 ペーター・ブロッツマン・シカゴ・テンテットのメンバーであるチェロ奏者フレッド・ロンバーグ・ホルムが、ブロッツマン・トリオとして初来日した機会をとらえ、日本に住んで音楽活動をしているシカゴ時代の盟友ジム・オルークと久しぶりの再会を果たし、<ブロッツフェス 2011>の他にもデュオで共演する一晩をもった。

 この晩のオルークはギターを弾かず、ロマンチックな響きを奏でるピアノの弾奏、プリペアドしたピアノ弦や音具による内部奏法、ピアノ・サウンドをサンプリングしたり電気的な変調を加えたりしながらの演奏など、ピアノという素材を、ときには楽器として、ときには発音源として使いながら、全体的には「拡張されたピアノ extended piano」とでもいうような、再構築されたピアノが奏でるサウンド・バラエティーのなかで、ノイズを主体とする即興演奏を組み立てていった。かたわらのテーブルには、ムビラ、大小の金属製ボール、マレット、トライアングル、ひご、スネアドラムのブラシや響き線など、プリペアド感あふれる七つ道具が並べられている。

 オルークのこのスタイル自体は、最近の即興演奏でよく見られるものであるが、フレッド・ロンバーグ・ホルムもまた、伝統的なチェロの弓奏、チェロのサウンドをサンプリングしたり電気的な変調を加えたりしながらの演奏というように、オルーク同様、拡張された楽器のサウンド・バラエティーのなかで、ノイズを主体にした即興演奏を組み立てていく点では、似たような方法をとっている即興演奏家だといえるだろう。というか、オルークはセッションによってがらりと楽器構成を変えてくるような演奏家だが、この「拡張されたピアノ」に関しては、私の場合、ロンバーグ・ホルムとのデュオを聴くことで初めてその全容を理解できたように思う。ロンバーグ・ホルムは、今回の来日では、持ち替え楽器に4弦ギターを使っているが、こちらの演奏も、サウンドの散らし書きとでもいった一種とらえどころのない印象で、つねに浮遊感のなかにあり、ギター演奏から一般的にイメージされるような楽曲性は、どこをさがしても見あたらなかった。

 頭をひっきりなしにピアノのなかに突っこんで演奏するオルークと、チェロを片手で支えながら、足もとのエフェクター類を操作するために、ほとんどの時間をかがみこんで演奏したロンバーグ・ホルムのふたりは、客席に身体を開いているからというわけではなく、おそらくは真正面から相対することを意識的に回避しつつ、お互いの演奏を、まったく無関係というわけではなく、かといってがっちりと組みあわせるということもなく、様々なサウンドをすれ違いさせ、そのたびごとに触れあわせるようにして即興演奏を進行させていった。ふたりが織りあげた音の世界は、とても余白の多いもので、たとえば、フリージャズ/ニュージャズのような即興演奏が、起承転結のような物語性を持っていて、演奏の最後に解放感がやってくるというようなものではなく、サウンドが触れあうたびに起こることがそのたびごとの出来事だというような演奏が続いていくのである。

 それでも第二部に何度もやってきた、チェロが伝統的なメロディーを奏で、ピアノがロマンチックなサウンドでアンサンブルする場面は、ふたりが演奏している西洋楽器の形、あるいは音楽の形がはっきりとする場所であり、たしかにノイズを主体にした即興演奏のなかに沈みかけているとはいえ、私たちが持っている古い感情をかきたてるにじゅうぶんだった。ポストモダンを経た私たちの耳にとって、こうした回帰の感情は、前衛的なるものの不徹底としては響かず、演奏が持っている振幅のダイナミズムとして感じ取られているのではないかと思われる。デレク・ベイリーが挑戦したような徹底したノン・イディオマティックの演奏の、その先を見ようとするとき、楽器の構造のなかで生き延びている数々の伝統音楽の記憶を、どのようにとらえなおし、解釈しなおすかは、現代の即興演奏の重要なテーマのひとつになっているのかもしれない。■

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公園通りクラシックス http://www.radio-zipangu.com/koendori