2011年10月24日月曜日

ESP(本)応援祭 第十一回

ガイドの泉秀樹氏とイベント主催者の渡邊未帆氏

ESP(本)応援祭
第11回「サックス奏者特集 Part 2」
会場: 吉祥寺「サウンド・カフェ・ズミ」
(東京都武蔵野市御殿山 1-2-3 キヨノビル7F)
開演: 2011年10月23日(日)4:00p.m.~(3時間ほどを予定)
料金: 資料代 500円+ドリンク注文(¥700~)
音盤ガイド: 泉 秀樹 サポーター: 片岡文明
主催: 渡邊未帆


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 10月23日(日)、吉祥寺サウンド・カフェ・ズミにて開催された「サックス奏者特集」の後半は、フランク・ライト、ノア・ハワード、マルゼッツ・ワッツ、ガトー・バルビエリなどがESPレーベルに残したアルバムを中心に聴きながら、いつものように、音盤コレクターとして詳細なデータを把握している片岡文明のサポートを得ながら、各種のディスコグラフィーを含む現在入手可能な史料により、1960年代のジャズに開かれていたインターナショナリズムを再構成することで、現代に残されたジャズの可能性や課題などを検証するレクチャーであった。この日の来場者のなかには、サックス奏者の近藤直司がおり、演奏家たちのスタイルを楽器の特性から解説していただくという、普段はあまり聞くことのできない特別な一幕もあった。ミュージシャンが気軽にイベントに参加するというのも、吉祥寺ズミならではのことであろう。

 当日かけられたアルバムは以下の通り。

(1)Frank Wright『Frank Wright Trio』(ESP-1023, 1965年11月)
(2)Albert Ayler『Holy Gost』(Revenant, 1966年4月)から、
   フランク・ライトとアルバート・アイラーが共演したテイク。
(3)Frank Wright『Unity』(ESP-4028, 1974年6月)
(4)Noah Howard『Noah Howard Quartet』(ESP-1031, 1966年)
(5)Noah Howard『Noah Howard At Judson Hall』
                    (ESP-1064, 1966年10月)
(6)Noah Howard『Berlin Concert』(FMP/SAJ, 1975年1月)
(7)Marzette Watts『Marzette Watts And Company』
                    (ESP-1044, 1966年12月)
)The Marzette Watts Ensemble『Marzette』(Savoy, 1968年)
  ※パティー・ウォータースが歌詞をつけて歌った「Lonely Woman」。
)Giorgio Azzolini『Tribute to Someone』(Rearward, 1964年5月)
  ※ガトー・バルビエリ作曲「HIROSHIMA」所収。
10)Don Cherry『Togetherness』(Durium, 1965年)
  ※ガトー・バルビエリをのぞき、ブルーノート盤『Complete Communion』とは
   メンバーが異なるこちらのイタリア盤が先行してリリースされた。
11)Gato Barbieri『In Search of The Mystery』(ESP-1049, 1967年3月)
(12)映画音楽『Last Tango in Paris』(Liberty, 1973年)

 講義のなかですでに何度も言われてきたことながら、ESP(本)応援祭の趣旨は、知っているようで知らない、聴いているようで聴いていない、1960年代のニュージャズ/フリージャズの演奏を、当時最も利用されていたアナログディスクによって実際に聴きながら、あれこれの批評を加える以前の段階で、言葉以前にある(身体的な)音の現象という出来事をまるごと受け取ってみるという考え方に立っている。mp3やYouTubeなどで、気軽にこうした即興演奏に触れられるようになった現代の環境で、この音楽が誕生してきた1960年当時の衝撃を追体験するのは、なかなかむずかしい作業になっている。それが現代において音を聴くことの条件だという考え方もあるだろうが、この講義では、ジャズの世界史的な視野をふまえながら、なおひとつの重要なポイントを設定し、その前後の録音を詳細に跡づけ、あぶり出すことで、サウンドを(バラエティーによってではなく)奥行きをもったものとして聴く工夫を施している。つまりこれは、単なる知識の提供にとどまらない、私たちが忘れてしまったひとつの聴取のスタイルを提示しているということであろう。

 中心となるサックス奏者の他にも、注目すべきミュージシャンの活動にも触れられた。サニー・マレーのESP盤でレコードデビューしたジャック・クールシルは、マルチニーク島出身のトランぺッターだった人で、一時期大学人となって音楽の現場を退いたあと、最近かつての仲間たちを集め、アメリカ先住民がたどった「涙の道」を演奏ツアーでたどりなおしていくプロジェクトを決行したこと、またマルゼッツ・ワッツのカンパニーに参加したドイツ出身のカール・ベルガーは、この時期、世界を股にかけて数多くのセッションをこなしており、彼の足跡をたどるだけでも、ヨーロッパのフリー・ミュージックをジャズと切り離して議論することがどんなに不毛かということ、そして極めつきがドン・チェリーの「コンプリート・コミュニオン」で、すべてのメンバーが文化的背景の違う国の出身者で構成されているところに、この時期の彼らが、どのようなヴィジョンを持って音楽していたかを明確に知ることができる。

 実際の演奏に即してミュージシャンたちの活動を追っていくと、この時期に経験された「自由」や「解放」の中身が、私たちがたびたびそのように理解しているような、絶対視されたエゴのぶつけあいなどではないことがわかる。ひきつづき探求が必要であろう。

 第12回「ESP(本)応援祭」はベース・ドラムを特集する予定。




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■ 吉祥寺サウンド・カフェ・ズミ http://www.dzumi.jp/