2011年10月4日火曜日

mori-shige&パール・アレキサンダー



WINDS CAFE #169
チェロとコントラバスによる即興演奏
── mori-shige & Pearl Alexander DUO ──
日時: 2011年1月30日(日)
会場: 東京/西荻窪「トリア・ギャラリー」
(東京都杉並区西荻北5-8-5)
開場: 1:30p.m.,開演: 2:00p.m.
料金: 投げ銭制(入場無料)
出演: mori-shige(cello)
パール・アレキサンダー(contrabass)


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 西荻窪のトリア画廊で、ユニークな音楽性で独立独歩の道をいくチェロ奏者の mori-shige と、まだ20歳代にもかかわらず、単身日本の即興シーンに飛びこんで活躍中のアメリカ人コントラバス奏者パール・アレキサンダーによる即興セッションがおこなわれた。

 第一部は、mori-shige、アレキサンダーの順でおこなわれたそれぞれのソロ・インプロヴィゼーション(22分/17分)、第二部はデュオ(26分)というシンプルなライヴ構成で、毎年来日しているフランスのチェロ奏者ユーグ・ヴァンサンと mori-shige のデュオが、このデュオならではといった絶妙のかけひきを味わうことのできるオリジナリティを獲得しているのにくらべると、過去数回の共演というふたりのデュオは、アレクサンダーの演奏スタイルが確立されていないということもあるのだろう、いまだセッションの域を越え出ていないように思われた。

 沈黙を多用しながら、変則的な奏法から生まれるいくつもの弦楽ノイズを組みあわせて演奏を構成していく mori-shige に対し、クラシックの素養があるパール・アレキサンダーの演奏には、技術の確実さに裏づけられた確乎とした動かしがたさがあり、ミニマルなサウンドの変化を追うスタイルによく似た部分があるとはいえ、mori-shige の音楽がもっている欲望の絶対的スピードとでもいうようなものとは、むしろ好対照をなす演奏を展開する。それはアレキサンダーが別にトリオで活動している斎藤徹のパッショネートな音楽性とも、似たようで違ったものであり、おそらく現在の彼女は、タイプの違う演奏家たちと即興セッションの機会を多くもつことによって、演奏テクニックには還元することのできない、プレイヤーの人間性と強烈に結びついたサウンドのありようといったものを吸収している真最中なのではないかと思われる。
 高音部をノイジーに気持ちよく滑走していく mori-shige のチェロの、饒舌で、快楽的な演奏と、低音部でよりリズミックなサウンドの塊を作りだしていくコントラバスの鈍重さは、それぞれ別の方角を指し示し、別の領域を動いているように聴こえた。コントラバスの響きの鈍重さは、演奏技術やインスピレーションの不足からくるものではなく、アレキサンダーが考えながら演奏するための遅れであったり、楽器解釈を含む演奏のヨーロッパ性とでもいったものに淵源していると思われる。おそらくは正規にクラシックを学んだことが、彼女にとって音楽形成の重要な部分をなしているということなのだろう。自分の置かれている状況を冷静に判断することのできるアレクサンダーには、そのときどきの感興に大きな影響を受ける即興演奏の到達点も、おそらくおぼろげながら感じられているのではあるまいか。

 アレクサンダー本人がいうには、彼女が活動の場として日本を選択することになったきっかけは、アメリカを訪れた斎藤徹のワークショップに参加したからだという。しかしながら、日本での彼女の積極的な活動の様子を見ていると、欧米で即興演奏の研鑽を積むのではなく、あえて極東の日本という迂回路を選択し、斎藤徹や mori-shige といった、強烈な個性をもった演奏家たちとの共演を選択しているのは、けっして偶然のきっかけばかりではないように思われる。回答は未来にしかないだろう。

 毎年のようにやってくる来日組は別にしても、ジム・オルークにせよ、トッド・ニコルソンにせよ、ケリー・チュルコにせよ、彼らが一時的にでも日本の音楽シーンに拠点をもち、そこでなにを見ているのかは興味のあるところである。東京は国際都市だからというようなありきたりの一般論で終わらせるのではなく、演奏活動を通じた日々の実践のなかで、彼我が見ているものの違い、聴いているものの違いを確認してゆく作業が、とても大事なのではないかと思われる。

西荻窪にあるトリア画廊

扉をはいると本日の演目のお品書き





















[初出:mixi 2011-02-14「mori-shige&Pearl Alexander」/加筆修正のうえ再掲載
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トリア・ギャラリー http://www.toriagallery.com/