2012年2月9日木曜日

宝示戸亮二+山口とも[2009]その1


宝示戸亮二+山口とも
日時: 2009年3月20日(金・祝日)
会場: 東京/新宿「ピットイン」
(東京都新宿区新宿2-12-4 アコード新宿 B1F)
開場: 7:30p.m.、開演:8:00p.m.
料金: ¥3,000(飲物付)
出演: 宝示戸亮二(p, small instruments, vo, etc.)
山口とも(perc, vo, etc.)
予約・問合せ: TEL.03-3354-2024(新宿ピットイン)
TEL.03-3316-7376(キャロサンプ)


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 札幌市在住のピアニスト宝示戸亮二は、地元公演はもとより、ロシア・ツアーの敢行、不定期になされる東京への出張公演など、ゆったりとしたテンポの音楽活動を通じ、叙情的にして破壊的という、ユニークな即興スタイルを獲得したインプロヴァイザーである。かつてピアノの内部に丸太を打ちこむような激しい内部奏法で人々の度肝を抜いた宝示戸も、天命を知る50歳を過ぎ、これまで意識的に距離をおいてきた彼自身のなかの叙情性に、よけいなこだわりを捨て、自然に向かうことができるようになったようだ。あらためて問いただしたことはないが、暴力的なまでに過激なピアノへのアプローチは、伝統性な日本的情緒と結びつき、ときにセンチメンタルに響くことすらある彼のなかの感受性に対する、全面戦争だったのだと思う。伝え聞くところによれば、50歳になったその日の朝、起床したベッドのうえに正座した宝示戸は、「今日からオレは変わる」と宣言したとか。現在は、内面から湧き出てくるメロディーで、たくさんの歌を作っているという。コンサート終了後、観客がはけたあとの会場で弾かれたそれらの楽曲は、ゆったりとした大らかなラインを描き出しており、まさに北海道の大地が生み育てた自然賛歌と呼べるようなものだった。

 ピアノのいたるところに小物をつるしたり、ステージ中央にまで進み出てカズーやピアニカを吹き鳴らしたり、衝動的になにごとかを叫びながら演奏したり、小物とバイブレーターをいれた円形の容器を、ピアノ弦のうえに置いてガタガタいわせるというような奇想天外な内部奏法をするなど、2年ぶりとなる新宿ピットインでの東京公演でも、異質なサウンド群を、一山いくらでぶつけあう宝示戸ならではのスタイルに大きな変化はなかったが、かつてのように、つねに衝動的であること、つねにピアノとの対決姿勢を示すことをインプロヴィゼーションとしていた姿勢は影を潜め、この楽器に対して、これまでになくセンシティヴに対していたのが印象的だった。がらくた打楽器の製作者にして演奏者である山口ともとは、札幌ですでにセッションずみとのことだが、ライヴでの宝示戸の変化は、この希有の共演者がいたからという以上に、なにほどかの転機を決意した彼の現在の心境を反映したものと考えるべきなのだろう。はじめて宝示戸の演奏を聴く音楽ファンにとって、それはやはりいまでも異様なもの、容易に理解しがたいものと映るだろうが、彼はいま、これまで奉じてきた即興演奏のヴィジョンが根底から変わってしまうような、大きな転機を迎えつつある。

 共演者の山口ともも、宝示戸に引けをとらないユニークな演奏スタイルを持つ打楽器奏者である。廃品回収されたがらくたで、オリジナルに創作されたリサイクル・ドラムセットばかりがユニークなのではない。この晩も、胸もとにヒラヒラのついたピンクのシャツに白いチョッキ、白いパンツに白い靴と、白づくめの衣装でかため、髪を巻きこんだような布をターバンふうに後頭部にのせ、おなじみの黒ぶち眼鏡をかけ、ヒトラーを連想させるチョビヒゲをはやし、装飾模様のようにくるくるとカールしたもみあげでサルバドール・ダリふうにキメるという、なんとも奇妙奇天烈ないでたちで登場した。奇声を発したり、ことあるごとに身体を痙攣させて演奏をストップしたり、「見立ての音楽」と呼んだらいいのだろうか、パントマイムらしき身ぶりをはさみこんでおこなわれる演奏は、硬質なインプロヴィゼーションを愛する生真面目な即興ファンの眼には、わざとらしいギミックとしてしか映らないだろう。しかしそれは「見立ての音楽」なのである。

 先にこのことを説明しておくべきかもしれない。山口の即興スタイルをシンプルに表現するなら、通常の即興演奏のように、サウンドを環境から切り離して提示するのではなく、それらのサウンドと同時に、あるいはときにサウンドに先立って、その関係性を決定づける物語や論理的コンテクストを、即興的に添えていくものではないかと思われる。ジャズだとか民族音楽、あるいはフリー・インプロヴィゼーションのような即興演奏においてさえも、通常、コンテクストは暗黙のうちに前提されているものだが、山口の演奏にあっては、演奏のなかで次々に展開されていく短いシークエンスごとに、その場で即興的に示されることになる。



[初出:mixi 2009-05-20「寶示戸亮二&山口とも(1)」を改稿した。]
[掲載した写真のうち、宝示戸のものは当日の記録がすでになく、一年後にリューダス・モツクーナスと共演したときのものを使用した。]      

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宝示戸亮二

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山口とも

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新宿ピットイン