2012年2月10日金曜日

宝示戸亮二と山口とも[2009]その2


宝示戸亮二+山口とも
日時: 2009年3月20日(金・祝日)
会場: 東京/新宿「ピットイン」
(東京都新宿区新宿2-12-4 アコード新宿 B1F)
開場: 7:30p.m.、開演:8:00p.m.
料金: ¥3,000(飲物付)
出演: 宝示戸亮二(p, small instruments, vo, etc.)
山口とも(perc, vo, etc.)
予約・問合せ: TEL.03-3354-2024(新宿ピットイン)
TEL.03-3316-7376(キャロサンプ)


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 この夜おこなわれたデュオ演奏から、山口の「見立ての音楽」の具体例をひろってみたいと思うのだが、その前に、デュオ演奏の全体像を素描しておいたほうがいいだろう。

 ライヴ構成は、17分の途中休憩をはさんで前半(44分)と後半(45分)、アンコール演奏(4分)というふうにわかれ、前半と後半のそれぞれに、ふたつのセッションがあったのだが、「もう、全部の楽器を演奏しちゃったよ」と、アンコール直前に山口が冗談ぽくいっていたように、全体はひとつらなりの音楽として聴くべきものだった。山口にとって、即興とは “二度と同じ演奏をしないこと” であるらしく、それを “二度と同じ楽器を演奏をしないこと” に置きかえた彼は、その実現のために、スネアに見立てられた小型でボコボコの石油缶、バスドラに見立てられた四角いプラスチック製のゴミ箱などの “ガラクタ” を使った創作ドラムキットだとか、演奏者の周囲をとり囲むように配置された多種多様なガラクタや小物の打楽器のひとつひとつを、順番に演奏していったのである。

 ステージに置かれたのは、一般的なドラムセットに見立てられるような楽器ばかりではなく、たとえば、山口の背後には、目線の少し上あたりに、両端に紙コップのついたコイルのような線がぶらんと張られていて、演奏者がその線をたたいたりこすったりすると、深いエコーのかかった電気的なノイズが増幅されて聴こえてくるといった、現代音楽のパロディーのような創作楽器もあった。演奏の都合で、それまでに使った楽器に戻りながら、ペース配分を考えて順々に楽器間を移動していき、たとえ演奏時間は短くても、いったんすべての楽器に触れまわった時点が、同時にライヴの「終了」につながるということであるらしい。それを配置された楽器を譜面に見立てた作曲ということもできるだろう。というのも、この場合のコンポジションというのは、五線譜によらずとも、演奏の外枠をどのようなもので構造化するかがポイントと思われるからである。

 デュオの演奏は単線的なものではない。あちこちに折れ曲がりながら連結していく短いシークエンスの連続が、方向性を見失ってしまうことがないよう、楽器のセッティングによって演奏の構造をあらかじめ素描している山口とも。それと対照的に、サウンドに対する衝動的な瞬発力を生命にしている宝示戸亮二のパフォーマンスは、サウンドとサウンドの間をイマジネーションの飛躍によって切断し、同時につなげようとする。宝示戸にとっては、この想像力のジャンプが高いほど、また遠くまで飛べるほど、パフォーマンスはより高度な即興になると思われているようである。響きと響きの間には、底なしの深淵が横たわっているのだが、そのような場所をことさらに選んで、宝示戸は演奏を構成していくのだ。彼の場合も、ピアノの周辺に雑多に配置される様々な小物類は、それが宝示戸のステージとすぐわかるくらいオリジナルな風景をなしており、その意味では、山口と同じように、それを譜面なしの作曲行為と解釈できないこともないが、宝示戸の場合、すべての楽器が演奏されるかどうかはなりゆき次第である。つまり、楽器構成はパフォーマンスの環境をなしてはいても、パフォーマンスそのものを制限する構造としては働いていないのである。この相違はけっして小さくない。

 興味深いのは、このような即興に対するヴィジョンの相違にも関わらず、ふたりがともに所有していた同じ楽器があったことである。申しあわせたように同時に鳴らされたそれらの響きは、おたがいを呼びかわすものとしてあり、共演の必然性を示す合言葉として響いていた。ひとつはチリリンと鳴る自転車のベル。もうひとつはグルグルとぶんまわすことで風を切る音を出す楽器以前の楽器(もともと出所不明の亡霊的な響きを介して、その場に呪術的な力を招き寄せるために使われた宗教的な道具という)。そして意味不明の言語による奇怪なヴォイス、あるいは奇声といったもの。これらは、即興を含めたすべての演奏に対して異化的であるばかりでなく、それ自身が楽器分類の以前にあるような音具であった。宝示戸亮二と山口とものふたりは、この世の出会いのはるか以前から、これらの響きによってつながっていたのである。



[初出:mixi 2009-05-21「宝示戸亮二&山口とも(2)」を改稿した。] 

[掲載した写真のうち、宝示戸のものは当日の記録がすでになく、一年後にリューダス・モツクーナスと共演したときのものを使用した。]

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宝示戸亮二

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山口とも

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新宿ピットイン