2012年2月4日土曜日

八木美知依 Double Trio


Michiyo Yagi Double Trio/八木美知依ダブルトリオ

如月の狂い咲き
日時: 2012年2月2日(木)
会場: 東京/新宿「ピットイン」
(東京都新宿区新宿2-12-4 アコード新宿ビル B1)
開場: 7:30p.m.,開演: 8:00p.m.
料金: ¥3,000(飲物付)
出演: 八木美知依(electric 21 string koto, electric 17 bass koto, vo)
本田珠也(ds, vo)、Todd Nicholson(contrabass)
田中徳崇(ds, vo)、須川崇志(contrabass, cello, electric bass guitar)
予約・問合せ: TEL.03-3354-2024(新宿ピットイン)


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【第一部】
01. 森の中へ(作詞/作曲: 八木美知依)
02. 十六夜(作詞/作曲: 八木美知依)
03. Seraphic Light ~ Leo(作曲: John Coltrane)

【第二部】
04. No Problem(作曲: Duke Jordan)
05. 殺しのブルース(作詞: 具流八郎、作曲: 楠井景久)
06. River Man(作曲: Nick Drake)
07. Rouge(作曲: 八木美知依)

【アンコール】
08. 二月二日(即興演奏)


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 繊細で、移ろいやすく、やわらかに内声を変化させていく倍音群をたゆたわせる箏を、あえてエレクトリック化することによってアグレッシヴな側面を強調し、それにふさわしい演奏を工夫し、また楽曲を準備していくという八木美知依の音楽探究は、ただいま現在、エレクトリック箏を中心にしたダブルトリオという、オーネット・コールマンのツィン幻想を引き継ぐバンドスタイルをとっている。箏を中心とする安定感のあるトリオの三角形を、まるで鏡に映すようにしてふたつにダブらせるバンド構造は、クラシック音楽のオーケストラのように、しかるべき音量を担保するために楽器を増やすといったものではなく、音楽をいわば楕円形にするためのものとなっている。ここではすでに、即興するミュージシャンたちは、フリージャズのような個のぶつかり合いに直面させられるのではなく、自らの “分身” に、たえず影のようにつきまとわれることとなる。アンサンブルのこうしたありようを、バンド構造によって即興のあり方が変えられたものということもできるだろう。あらかじめ書かれた楽曲によって、演奏の行き方は決められているが、このバンド構造は、いついかなるときでも、楽曲を支える即興演奏のレヴェルで、ある “ずれ” の感覚を生み出すことになる。周知のように、オーネット用語でいうなら、ハーモロディックな感覚ということになるだろう。

 八木美知依の歌は、邦楽の伝統的な歌唱スタイルを換骨奪胎したものででもあるのだろうか、撥音便や独特のビブラートによって作られるコブシは、私たちがあまり聴くことない独特なものとなっている。声のサウンドが、アルカイックな印象を与えるのである。(「十六夜」が、楽曲のモチーフを黒澤明監督の『蜘蛛巣城』から得ているように)映画のワンシーンを思い起こさせるイメージ豊かな楽曲を、けっして感情移入することなく、突き放すように歌うところに、いわば声の叙事的文体とでもいうべきものが生まれている。イメージでいうなら、ある古代的な情景を語る語り部の声といったらいいだろうか。複雑な構成をとる楽曲のアレンジが、プログレッシヴ・ロックを意識していることはあきらかだが、そうした技術的なことを乗り越えて、ここにはトラッドな色彩をもったユーロロックの水脈が、ある世界観を描き出すための額縁として採用されているかもしれない。

 歌の間にはさみこまれた台詞の場面で、ドラマーのふたりが意気がる殺し屋を演じる「殺しのブルース」は、八木美知依の十八番だが、今回初めて、殺し屋ふたりの台詞まわし(オリジナルに作詞したようである)の最後に、「喧嘩しちゃダメよ」という、姉御の鶴の一声がはいるバージョンを聞いた。この曲は、巻上公一の超歌謡シリーズの十八番でもあって、こちらでは、楽曲のクライマックスにくると、殺し屋となった巻上が、「No.1は俺だ!」と連呼して、ステージを一気に演劇的な場に変えてしまう。歌謡曲が劇的な世界に接合されることで、観客は巻上ならではのドラマツルギーに巻きこまれていく。一方、ダブルトリオのバージョンは、どこまでもコミカルな味を前面に出したものだが、下手に立てられたマイクの前に立った殺し屋ふたりは、ここでもツィン・ブラザースの対称性を演じていた。おそらくはそれが姉御の一言を引き出したのであろう。

 プログレッシヴな展開の楽曲では、箏の演奏にディストーションがかけられ、ギターのリフやチョーキングを模倣するような場面もあった。このあたりの音作りは、エレキ箏を使い始めた当初は、ミュージシャンのイメージのなかにはあったかもしれないが、表立って聴かれなかったものである。楽器に慣れ親しむとともに、これまでにない可能性のひとつとして、積極的な実験が重ねられているのではないだろうか。このエレキテルな領域こそ、現在ダブルトリオが踏みこみつつある「えれきでびびび」のサウンド世界である。冒頭の曲「森の中へ」では、コントラバスの須川崇志がエレキベースを抱えてステージ下に位置し、ソロが渡される場面では、ベースを弾くというより、むしろエレクトロニクスと呼んだほうがいいような不定形のサウンドを放出していた。このときの須川のソロは、複雑な楽曲構成を破っていくような集団即興へと移行していったが、これはコルトレーンの曲を集団即興した「Seraphic Light ~ Leo」のフリージャズ演奏とは好対照の、ヴァイタルで野性味にあふれた音領域の開拓になっていたと思う。フリージャズ演奏にあるパルスの奔流が、「森の中へ」ではある種の飽和状態──サウンド・プラトーに置きかえられていたからである。両者はまったく異なる集団即興のありようを聴かせていた。

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新宿ピットイン