2012年6月22日金曜日

The Tokyo Improvisers Orchestra を語る PART 2



The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
── Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー ──




PART 2 オーケストラがめざすもの


岡本 過去の事例から考えても、オーケストラはみんな拒否したがるんですよね。わーって音を出して、それでとにかく大騒ぎになって終わる。はっきり言ってつまんない。だから自分が書いたメールは、そうじゃないようなことがやりたいんだっていうことを書いて送ったんですね。それがたまたま自分の予想よりたくさん来てくれちゃったうえに、Miya さんがストリングス・チームをゲットしてしまったので、それでいっきに40人という大所帯になっちゃった。

Miya 希輔さんが選んでくださったメンバーは、筋金入りっていうか、即興演奏をずっとされてきた方がやはり多くて、私も出会うチャンスがなかったような人たちが多かったですね。オーケストラをやる目的のひとつとして、希輔さんがおっしゃったように、仲間うちだけでかたまるのではなくて、プラットホームとして作りたいという気持ちがあるので、いろんな分野のなかで、即興に対してオープンな気持ちを持っている人を入れたいという気持ちが強かった。じつはジャズ・ミュージシャンにはまだひとりも声をかけてなくて、かけたいという気持ちはあるんだけど。

岡本 いやあ、そうなんだよね。だからそのいまの部分、共通のコンセンサスみたいのがあるから、逆に合わないところもいっぱいあるんですよね。俺が呼びたい人は、この人はおそらく呼びたくないだろうなとか、もっとサクソフォンを増やして、バーッと音が大きくなるような音楽もやってみたいとか、いろんなことがあるんだけれど、いまのところ、メンバーのひとりひとりにどう思うって聞きはじめちゃったら、もう収拾がつかない。もう100人いれば100人違うことを言うから。会議するわけにもいかないし。集まって練習するのだって大変なのに、意思をまとめるなんてとてもできない。誰を指揮者にするとか、どんな音楽をやるとか、それはもう、私たちふたりでぜんぶ決めてしまう。それはもう独善的に決めてしまうというのを、もうしわけないけど少しの間やらしてくれと。
 ただし、他のオーケストラと違うのは、あなたに20分間の指揮をやってもらいます。その20分間はあなたが好きにやっていい。オーケストラの構成は基本的にはアコースティック中心なのですが、それはもう大前提であって、あなたが指揮をするときは、それをぜんぶ破ってしまってもかまわないという取り決めがあるんですね。だから指揮者にはどんな細かい命令も、やり方の指示も、いっさいしない。

Miya 指揮も、実際にやってみるといろいろと気づくところがあるんだけれど、やっぱり指揮をするときのテクニックが、すごく必要だなと思うんです。それもみんなで作っていきたいし、演奏者は最終カードを持っていて、それはなかなか勇気がないと使えないカードなんだけど、「指揮を拒否する」というカードも持っているんですよ。

岡本 ソロをとれといわれても拒否できたり、こういうのをやってといっても、いや、それは俺の音じゃない、俺はそれやりたくないというのも、ぜんぶアリなんですよ。逆に、勝手に弾いてしまっても、勝手に音を出してもいい決まりになっている。でも、さらにそれを指揮者がうるさいっていってもいい決まりにもなっている。だからぜんぶアリなんです。ただ、自分が第一回TIOをやって失敗したと思うのは、ほんとにちゃんとよく聴ける人ばっかりを集めたことが裏目に出て、あまりに静かできれいな音楽を作りすぎてしまったというのが、いまちょっと反省点としてあるのね。

Miya おっしゃることよくわかります。メンバーが即興演奏家だから、ワーッと自分のことを主張するかと思いきや、すごく協調性が高いなと思いましたね。

岡本 自分では仲のいい人だけを集めないようにしようと思ったけど、やっぱりそうなっちゃったんでしょうね。何人かのミュージシャンには、もう頭下げてお願いした人もいるんですよ。だけどそのなかには、やりたくないっていう人も何人かはいて、もちろん公演日に外国にいってるからできないとか、アドバイスだけはできるけど、自分はいまそういうことはやりたくないとか、そういう人も含めてですけど。もう頭を下げて、とにかくあなただけはどうしても参加してもらいたいといったけど、参加してくれなかった人がふたりだけいます。それはすごく寂しいことでした。それはもうしょうがないですよ。いっしょにやるって意識がないのに、やってもらってもしょうがないし。
 自分たちのやっていることを世界に門戸を広げて主張していく。なんていうのかな、ひとりひとりの、俺は、俺はじゃなくて、いま日本でこんなすごいことができるんだぞっていうのを、まず世界にアピールしたいし聴いてもらいたい。それがその、実際にやってみたら、ドイツでも同じようなことをやっているし、ポルトガルでもイギリスでもやっているし、ペテルスブルグでもやっている。齋藤徹さんにも相談したんですが、齋藤徹さんはすごく相談にのってくれて、アドバイスくれたり、指揮法のリストを送ってくれたり、あるいは自分がドイツでやったオーケストラのDVDを送ってくれたりとか、すごく手伝ってくれて、そこから世界中で同じようなことを、ものすごい数やっているのがわかったんですよね。国を超えて同じことをやっているという仲間意識みたいなもの、それがすごく大きくなってきたのが嬉しいっていうか。そうすると、自然とこう行ったり来たりする。そういうのをどんどん広げてやっていきたい。だから自分も最近どんどんヨーロッパに行くのは、それが理由なんです。
 フライヤーを作って、どこかに束で置いておいても意味がないんで、誰か、この人はという人にじかに手渡して、こんなことやっているんで来てくださいねっていうのがフライヤーだと思うんです。そのためにポルトガルまでいって、こんなことやってますというようにTIOのフライヤーを見せる。来週やるから、あなた来れないかもしれないけれど、いつか来てね、いつか演奏で来てねって。ドイツへ行っても同じことをやって。それで向こうの人と仲よくなって、それも誰でもいいってわけじゃないですよ。もうゴマンと演奏家はいるから。いっしょにやってみないとわかんないこともあるし。

──確認しますと、世界中でというのは、世界中にインプロヴァイザーがいるっていうことなのでしょうか、世界中にオーケストラがあるということなのでしょうか。

岡本 いや、もう日本も外国も垣根がない状態に持っていきたいんです。たとえば、ベルリンの演奏家が、日本にちょっと来て即興演奏やってみたいなって思ったときに、どうすればいいと思います。結局のところ、雑誌を騒がせているような、あるいはCDがよく売れているような有名な人を頼るしかないじゃないですか。だけどTIOがあったら、TIOにまずアクセスしてくれれば、TIOはまるっきりの非営利団体だから、たとえば、ビデオでもYouTubeでも音源でも演奏を聴かせてもらって、あなたこの人とやってみたらどうなのって紹介できるじゃないですか。私たちは門戸を広げて、いつでもどこでも、ちゃんとした人がちゃんとした組合わせで演奏できるような環境を作りたいだけなんですよね、基本的に。

Miya インプロヴァイズド・オーケストラは、私もいってみて気がついたんだけれど、ロンドンは13年の歴史があって、ベルリンは昔からあるヤツと、私が最近関わっているヤツがあるんだけれど、イギリスのなかでも、ロンドンだけじゃなくて、オックスフォードとかスコットランドとか、LIOとはぜんぜん関係のないいろんなところで勝手に起きているんですって。ヨーロッパの各地にも、私は直接には知らないんだけれど、スペインにもあると。だけど組織立ったものはないんですって。

岡本 そう。だから誰かひとりが頭になって、あれ向こうでやってるからこっちでもやってみようぜって集まってやって。<東京インプロヴァイザーズ・オーケストラ>って、前に藤井郷子さんたちがやっている(※註1)んですよ。藤井さんとか松本健一さんとか。新宿ピットインで。

Miya あ、そうそう。私も見た。あれはリーダーがいましたね。オーケストラの運営って、ほんとうに大変なんです。私もこの間よくよく考えてしまって、私は集団行動がなによりも苦手なんですよね。なんで私がこんなことやってんだろうなって思ったときに、ふと気づいたのが、希輔さんもそうだし、TIOも私利私欲で動いている人がひとりもいないんですよ。みなさんほんとに惜しみなく協力してくださるし、面白い音楽をやるためには、自分の技術とか、持っているものすべてをそこに惜しみなく提供して、守るんじゃなくて、オープンにしていこうという気持ちの人たちが集まってきてるから、私も自分にできることはなんでもやろうと思うんです。もちろんみなさん他の活動もあって、そのなかでやっていくことだから、比重は人によって違うし、一生懸命やるけど、これにばかりエネルギーをかけていられないところもあるし、バランスは人によって違うと思うんだけれど、長く続けていくために、ストレスにならないギリギリの範囲でやっていきたいなと思っているんです。

岡本 一生懸命、練習会場を予約してくれたり、フライヤーの文章を英訳してくれたり、意外に大変なことをやってくれるんですよね。いろんな人がいろんな形で協力してくれるから、お金かかってないですよ。TIOってコンサート会場借りるくらいで、練習場って、区の施設とか借りると3000円とか4000円くらいじゃないですか。

──お金はみんなで出しあうんですか?

岡本 いや。だって必要ないですもの。

Miya いやいや。それはぜんぶ最終的な収益から引いてるんだけど、この間40名でやって、会場費とかぜんぶ出して、ほんとうに小額ですけれど交通費程度は支払えたんですよね。それを聞くとみなさんほんとうにびっくりしますね。

岡本 プロだから。趣味でやってるんじゃないから、収益が出るようなところまでは持っていこうねって、みんなに言ってるんです。(【PART 3】につづく)


※ 註1)2005年11月29日、スコットランドのグラスゴーを拠点に活動するレイモンド・マクドナルドが、藤井郷子や田村夏樹との交流を通じて来日した際、新宿ピットインで持たれた一夜だけの大編成のオーケストラの名前が、 <Raymond MacDonald Tokyo Improvisers Orchestra>だった。グラスゴーでもマクドナルドが所属する<Glasgow Improvisers Orchestra>が長い活動をつづけており、渡英した藤井らがこれに参加している。

 【写真クレジット】
   Top: The Quartet, Klaus Kürvers(contrabass), Maresuke Okamoto(contracello), 
   Hui-Chun Lin(cello), Jean Michel Susini(violin), April 6th, 2012, Sowieso in Berlin
   Middle: TIO
   Bottom: Makoto Sato(Drums), Richard Comte (Guitar), Miya(Flute), at Paris 2011


 ■The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
  ──Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー
 【PART 2】オーケストラがめざすもの

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The Tokyo Improvisers Orchestra