2012年6月22日金曜日

The Tokyo Improvisers Orchestra を語る PART 4


The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
── Miya・岡本希輔 ダブルインタビュー ──



PART 4 語りなおされる「即興」


── Miya さんはロンドンのオーケストラの経験がある。岡本さんは、他のオーケストラに参加されたりしているんですか?

岡本 俺は6月にポルトガルのMIA(3º Encontro de Música Improvisada de Atouguia da Baleia)の Ernesto Rodrigues(viola, conduct)、Paulo Curado(horns, conduct)の2人の指揮のオーケストラに参加します。そして11月にベルリンの BerIO[Berlin Improvisers Orchestra]に参加しようと思っているんです。

──コンサートをやってみて、さっき少しおとなしくなりすぎちゃったんじゃないかって話が出ていましたけれど、各国ごとの印象というのはどうなんでしょうか? 違いがあるんでしょうか?

Miya ロンドンもベルリンも、私は両方参加しているんですがもっとワイルドですね。くらべるものではないと思うんだけど。そのときに私が思ったのは、日本って教育で小学生のときからすごく協調性を教えこまれるじゃないですか。私は音楽のプロフェッショナルになった瞬間に、特に私のまわりがそうだったのかもしれないけれど、なんでみんなこんなにするのって思うくらい主張があったんですよ。仕事をし出した瞬間に。それがすごく不思議だった。ロンドンで仕事をする機会があって初めてイギリスに行ったときに、向こうでは、みんな自分の意見を主張するように教育を受けてきているんだけれども、仕事の現場になった瞬間に、すごい協調性があるんですよ。人の紹介にもすごく気をつかうし。イギリス人がですよ。日本って逆だなあと思った。

岡本 ああ、そうだなあ。もっと緩やかな協調性があるとよいですね。例えば誰かが外国から日本に演奏に来て、俺はそういうの嫌いなんですよね。俺はやんないけどお前がやれよみたいな。いつもそういうのをいっぱいやりたいんですよね。あの人いいから、お前とあうからやってみろよっていう。それでTIOのメンバーの人たちが、みんな聴きにいけば、それはまた、なんか別の話になって伸びていくじゃないですか。最初にみんなにメールを送ったっていうのは、そういう内容のメールを送ったんです。

Miya 私がひとつ思ったのは、LIO[London Improvisers Orchestra]の演奏は、年数も重ねて来ているから、信頼関係があるってことがまず大きい違いだと思うんだけれど、けっこう相手がなにをやっても、たとえば、隣の人が指揮が明らかに来てるのに、完全に無視してガーッて吹いていたりしても、ああ、またアイツやってるなみたいな感じで、オールOKなんですよ。誰がなにやってもOKな空気感が作られている。もちろん面白くなければNGですよ。だから、やる人も面白いという確信をもってやっているからいいと思う。TIOの場合、おとなしくなりすぎた一番の原因は、協調性があるからじゃなくて、まだおたがいに知らない人たちばかりだから、信頼関係が築けていないということが大きいと思う。それは出会って間もないことなので、しかたがないことだと思うんです。ひとりひとりが指揮をするようになって、その人のパーソナリティってすごく出るじゃないですか。ああいうことを重ねていけば、もうちょっとワイルドな感じになると思う。

岡本 やっぱりサックスも少ないからね。この間のはホーンが少なくて、弦が多かったでしょ。

Miya でも弦が多くないと、オーケストラにはならないからね。

岡本 だから特色ですよね。今回は弦が少ないんですよね。

Miya 私が思うのには、オーケストラという形があるのは、機能があってああいう楽器編成になっているわけだから。

岡本 俺はね、それはぜんぜん違う考え方なの。たとえば、ピアニストが3人いたり、ギタリストが3人いたりとか、普通だったらそんな編成は考えられないでしょ。音的に邪魔だし。でもインプロヴァイザーっていうのは、たとえばギタリストがガーッて弾く人じゃないもの。だからTIOの編成っていうのは、もうメチャクチャでいいと思う。コンピュータばかり10人いるTIOでもいいと思うし、サックスばかり10人でもいいし。だけど、いまあなたが7月にむけてやりたいと思っていることが、違ってたらつまんないじゃない。だから今回あなたがやりたいようにメンバー集めましょうと。だから毎回メンバーが違っていいと思うんですよね。

Miya ここは私と希輔さんの意見が違うポイントなんです。

岡本 そう。ぜんぜんあわないの。

Miya じつは私は、オーケストラという名前にするのであれば、弦は必要だと思うんです。半分ぐらい弦がいないとオーケストラではないと思う。で、違う名前にすればいい。Tokyo Improvisers ナントカって言えばいいと思うんだけれど。

岡本 Miya さんには、数多く自分の思いつきを提案するのですが、なかなか賛成は得られません。2人だけでさえ意見を統合するのは困難なのです。

Miya 今回、前回参加してくれた弦の人たちは、スケジュールが合わないということもあるし、アイディアが理解してもらえなかった人も何人かいて、参加しないんですね。でも、私がオーケストラを面白いなと思ったのは、やっぱりいろんなジャンルから人が集まってくることなんです。ジャズの流れの人もロンドンにはけっこういるんですね、即興に特化している人、サウンドに特化している人、ロックからも来てるしポップスからも来てる。ただ比率でいえば、3分の一ぐらいが現代音楽の人なんですよ。弦楽器プレイヤー、ピアノのなかしか演奏しない人、あとは「object」といって物を演奏する人とかが多くて、私はそういうぜんぜん違うジャンルの人を呼びたいと思っているんですね。いま希輔さんの話を聞いていてハッと思ったのは、私はまだそういう形式のなかでのイメージでとらえているんだってこと。希輔さんは、形式なんかは関係ないと、インプロヴァイザーで面白ければなんでもいいんだということは、わかるんだけれど。

岡本 ただ、インプロヴァイザーがみんな同じコンセンサスを持っているわけじゃないから。ほんとうに違うでしょ。即興ってなんだって聞かれて、同じ答えは絶対に返ってこないじゃないですか。100人に聞けば100人が違う即興だし、しかもまるっきり違うでしょ。だからそれをまとめあげる必要はないし、できないですよね。そんなことはもうぜんぜん無理だと思っているので。

──さっき集団即興に興味があるっておっしゃったでしょう。それってこのところのインプロのシーンではあまりない試みじゃないですか。

岡本 俺がそれをやっているのは、昔この茶会記で「ドガの踊り子」というのをやったことがあるんだけど、「ドガの踊り子」って、一枚の絵のなかで踊り子とパトロンがいて、そのどっちが欠けても絵として成り立たないじゃないですか。だけど観客がどっちを観るかといえば、パトロンを一生懸命観ている人もいれば、踊り子を一生懸命観ている人もいる。絵によって踊り子がこんなに小さく描かれていることだってある。たとえばここで5人でやったときに、誰かがソロをとっているんだけれど、お客さんはそのソロをとっているヤツだけを聴いているわけじゃないじゃないですか。絶対的にいえば。わきで待っている人を、演奏していないけど、その人ばかり見つめている人もいれば、あるいはオブリガードだけを聴いている人だっているだろうし、だから、どうせそうなんだったら、いまこの場面でこの人が主役、その場面でその人が主役というのを、演奏しながらわざと作っていったらどうなの。たとえば、30秒ごとにどんどんソロをとる人が変わるとか、あるいはこのデュオ、このデュオ、このデュオ、このデュオってどんどん変わっていくとか、もしそれが終わったら、このトリオ、このトリオ、このトリオっていろんな組合わせで。いっしょにやっているんだけれど、意識的に組合わせをどんどん変えてやっていく。このやり方がいま自分が誰かとやるときの基本的な演奏のしかたなんですよ。それをオーケストラでやってみたい。それが40人になろうと50人になろうと、指揮者がいるんだから、うまく指揮さえすれば、見事に簡単にできるはずなんですよ。いまあなたはここでカルテットで演奏してといって、それを演奏しながら、こっちではトリオで演奏してと。

──それは集団即興っていうんじゃないかもしれませんね。

岡本 それがほんとうに即興になっていくんだろうけれど。

──要するに、60年代的な発想だと、集団即興にある種の全体性を求めたようなところがあったでしょう。グワーッてなるということが、必ずしも否定的なことではなくて、自分たちの共同性を獲得するための方法だったというような。

岡本 だけどさ、それは具体的に誰のことをさしているの。いっぱいいましたよね。たとえば、サンラーのアーケストラを「集団即興演奏」というのか。

──部分的にはあったかも。

岡本 ですよね。だから、思うんだけど、「即興」という言葉を使うこと自体にもう無理があるんですよね。

Miya あと、もうひとつつけ加えるならば、Tokyo Improvisers Orchestra というのは、即興のオーケストラではなくて、即興ができる人が集まっているオーケストラなんです。

岡本 即興ができる人たちが集まって、譜面をやることだってあるかもしれない。

Miya あー、そうそう。

岡本 だからニーノ・ロータの曲だけやりましょうということだってあるし、セロニアス・モンクの曲だけやりましょうと、それも即興じゃなしに、譜面をばっちりやりましょうと。譜面を使ってもいいわけだから。なんでもありなんだから。だから、インプロヴァイザーズが集まっているオーケストラなんですよ。即興をやろうという話が、最初からあるわけじゃない。ただ即興演奏家だから即興をやってもいいんだけれどもというスタンスなんです。

Miya 希輔さんのとらえかた、私はすごくいいなと思うんです。この間のリハのときも、すごくいいなと思った。ひとりひとり指揮者をやると、指揮をするという行為だけで、まずいっぱいいっぱいになるんですよね。やったことのない経験だから。希輔さんはこういうふうにしたいんだと最初にみなさんにお話しして、実際にそれを試すことをやって、ワークショップというのはそういうことをする場だからすごくいいなと思ったんですけれど、LIOでは、リハーサルする場所がなくて、本番前の一時間ぐらいしかできないんですけれど、ただやっぱり経験はあるので、お金をとってパフォーマンスするだけのクオリティのものはできるんだけど、毎回なにか新しいことを試すんですよ。それで、人によってはほんとうに譜面を持ってくる人もいた。今日はこれとこれとこれの音を使う場面を作りたいからといってそれを配って、一回やってしまったら、それを毎回やらなければいけないということではなくて、今日はこういうことを試してみたいと、次はそれを発展させてこういうことをやってみたいと、いろいろなことを試す場であったりしますね。

岡本 どんどん新しくなっていかなくちゃダメなんですよね。その場所で毎回同じだったらもうやっている意味ないんで。指揮をやる前に、頭のなかで妄想のようにいろんなことを考えるんですよ。あの人こうやったらどうなの、この人こうやったらどうなの、ダンサーがこう動いたら面白いんじゃないのとか、もういろんなことを考えるんだけど、実際にその人たちの前に立つと、それは違うということに気づくんですよ。妄想と現実とのギャップ。ほんとうにこんなに違うんだと。だけど、この人たちにやってもらいたいことがなければ、もうその前に指揮者として立っている意味がないわけだから、それが即興ですよね。出てくる音が即興なのではなくて、その人たちといっしょにいてなにかしようとすること自体が即興だと思う。

Miya うんうんうん。

──それでは最後に、次回の公演に向けての言葉をいただけますか?

Miya 一回目は面白かったんだけれど、二回目、三回目はすごく重要なポイントであるなと思っています。TIOっていうのは、来て、見ていただかないとわからないタイプのものだと思うし、ほんとうに体感してほしい音楽なので、とにかく、ぜひ来てくださいということをいいたいです。

岡本 やっぱり継続することが大事だと思うんですよね。どんな形でもいいから継続して、ずっといってきたような環境をコツコツと作りあげていく。それが5年かかるのか、10年かかるのかわからないけど。ずっと続けていくことが大事だと思っているので、ぜひいろんな人に参加してもらいたいし、聴いてもらいたい。



 【写真クレジット】
  Top: Anna Kaluza(Sax), Robert Wuerz(Sax), Miya(Flute) at Berlin    
  Middles: TIO
  Bottom: P.R.E.C., Paulo Chagas(Oboé, as), Paulo Curado(Flute, Sax), João Pedro 
       Viegas(Clarinet), Luís Vicente(Trumpet), Fernando Simões(Trombone), Eduardo 
       Chagas(Trombone), Paulo Duarte(Guitar), Maresuke Okamoto(contracello), Miguel 
       Falcão(Contrabass), Monsieur Trinité(Percussion, Objects), Pedro Santo(Drums), 
       Espectáculo de promoção ao MIA 2012 - 3º, Encontro de Música Improvisada
       de Atouguia da Baleia


 ■ The Tokyo Improvisers Orchestra を語る
   ── Miya・岡本希輔 ダブルインタヴュー
 【PART 4】語りなおされる「即興」

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The Tokyo Improvisers Orchestra
2nd Concert
日時: 2012年7月16日(月・祝)
会場: 東京/中野「野方区民ホール」
(東京都中野区野方5-3-1)
開場: 7:00p.m.、開演: 8:00p.m.
料金/予約: ¥2,000、当日: ¥2,500、学生: ¥1,500
問合せ: TEL.03-6804-6675(Team Can-On)
E-mail: team.can-on@miya-music.com

【The Tokyo Improvisers Orchestra】
violin: 島田英明 中垣真衣子 小塚 泰
cello: 岡本希輔 contrabass: カイドーユタカ Pearl Alexander
flute: Miya bamboo flute: Terry Day
oboe, English horn: entee reeds: 堀切信志 森 順治 山田 光
trumpet: 横山祐太 金子雄生 trombone: 古池寿浩
guitar: 臼井康浩 細田茂美 吉本裕美子
electronics: 高橋英明 drums: 荒井康太
percussion: 松本ちはや percussion, vo: ノブナガケン
piano: 荻野 都 照内央晴 voice: 蜂谷真紀
reading: 永山亜紀子 dance: 木野彩子 佐渡島明浩

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The Tokyo Improvisers Orchestra