2013年3月21日木曜日

【CD】河野 円: inside-out, outside-in




河野 円
Madoka Kouno
『inside-out, outside-in』
Hitorri|hitorri-998|CD
曲目: 1. in (24:54)、2. out (22:20)
演奏: 河野 円(tape recorders, mixer, speakers, digital tuners)
録音: 2013年1月6日、Ftarri水道橋店での公開録音
発売: 2013年3月31日



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 楽器のように手元で自由に扱えるハンディサイズの小型カセットレコーダーを使用する河野円(こうの・まどか)は、カセットテープを装塡せず、レコーダーの内臓マイクを利用して、聴き手と演奏者がいるライヴハウスのような環境内に、フィードバックを利用したサウンドの回路をオリジナルに構築することで、音を聴く(日常的な)耳の位相を異化してみせたり、耳を多様な聴取のあり方に開いてみせたりするパフォーマンスを展開している。フィードバック回路が生成するサウンドを、身体にとって耐えがたいものとしてではなく、美的な(といっていいのだろう)経験にもたらすため、カセット機器を微妙に動かして一定のコントロールを加えるところに、手の痕跡といっていいような演奏性(あるいは即興性)が立ちあらわれるが、それらはむしろフィードバック回路が、増幅するフィードバック音そのものによって破壊されてしまわないようにするためのものと思われ、結果として得られる音像の美的な効果にかかわらず、パフォーマンスの過程では、演奏の内容を問題にするというより、演奏を成立させる構造的なもの、すなわち、つねにすでに場を構成する要素そのものに働きかけている。この意味では、彼女の演奏をサウンドアートと呼んでもいいように思われる。

 他の共演者を置かず、レコーダーをスピーカーに直接つなげておこなわれた本盤のパフォーマンスは、楽器を使わずに自己言及性を生きているという意味で、ソロ演奏の構造だけを抽出したようなパフォーマンスになっている。フィードバックという点では、大友良英のギターソロを連想させもするが、河野円の独自性は、おそらくパフォーマンスに先立って環境そのものを再構成する点にあるだろう。本番では、それが「in」(レコーダーとスピーカーが作る回路に観客を in する)と「out」(レコーダーとスピーカーが作る回路から観客を out する)の楽曲構成にあらわれている。観客(あるいは観客席)が、フィードバック回路の内部にある場合と、外部にある場合が想定されているのであろう。実際のパフォーマンスを経験していないので、全身的に経験されたサウンドの違いがどうあらわれたのかを、ここで言うことができないのだが、収録されたふたつの演奏を聴くかぎりでも、その違いは明らかなように思われる。端的にいうなら、フィードバックするサウンドのスピードが、「in」よりも「out」が圧倒的に速いだけでなく、音の立ちあがりやエッジの鋭さが、より明快なものになっているからだ。言うまでもなく、これは観客席を「out」にするために近づけたレコーダーとスピーカーの距離の相違によるものである。

 あらためて表現者とフィードバック回路の関係についていうなら、河野円は、自己表現のためにサウンド配置する(即興的にコンポジションする)のではなく、本盤のようなソロアルバムにおいてもなお、サウンドが自生してくる環境を創造し、維持するような性格のパフォーマンスをしている。再度、大友良英を引きあいに出せば、彼の場合、最終形態としての「without records」では、演奏者そのものが姿を消すことになるのだが、河野円の場合は、フィードバック回路を聴き手に経験させるための演奏性を捨てることなく、その場に居つづけることで、音楽演奏が生んだプレイヤー概念とは別のプレイヤーのあり方を提示しているともいえるだろう。というのも、演奏者の姿を消すことが、かならずしもそのありようを変えることにはつながらず、より巨大な表現者として出来事に回帰してくるケースを考えておかなくてはならないからである。河野円のパフォーマンスにおいては、すでに表現者とは別の演奏者がいる。サウンドアートのようなジャンルを持ち出す前に、一度じっくりと彼女の戦略的な演奏を読み解いていくべきなのかもしれない。





★河野円CD発売記念コンサート   
3月23日(土)開場:7:30p.m.、開演:8:00p.m.   
出演: 河野 円、sei(from ju sei)、中村ゆい   
会場: Ftarri水道橋店   

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