2013年4月9日火曜日

すずえり: ピアノでピアノを弾く




すずえり: ピアノでピアノを弾く
suzueri: recursion piano
期日: 2013年4月8日(月)~4月29日(月)
時間:[月火]open: 3:00p.m. ~ close: 7:00p.m.
   [木金土]open: 3:00p.m. ~ close: 8:00p.m.
(最終日 close: 5:00p.m.)
会場: 東京/渋谷「20202」(休廊日: 日・水)
(渋谷区富ヶ谷1-14-20 森林ハイツ202)
入場: ドリンクオーダー(300円~)
問合せ: TEL.03-3465-5065(20202)

【ひきつぎコンサート
日時: 2013年4月29日(月・祝日)
開演: 7:00p.m.
料金: ¥1,000
出演: すずえり、舩橋 陽



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 48日(月)から29日(月)までの期間、渋谷区富ヶ谷にある森林ハイツの一室を利用したアートスペース「20202」(ツーオーツーオーツー)で、すずえりこと鈴木英倫子のトイピアノ・インスタレーション「ピアノでピアノを弾く」が開催されている。パフォーマンス、あるいはイベントというと、そこで起こる出来事そのものは特定のジャンルを持たないにしても、歴史的な文脈では、美術の領域にあるものと想定されることになるのだろうが、すずえりがトイピアノを使っておこなうそれは、高橋悠治が演奏する作曲家のありようを、かつて「コンポーザー=パフォーマー」と呼んだのとも違って、行為する美術というより、やはり音楽に対して脱構築的なものとしてあるように思われる。ピアノ、あるいはトイピアノという、音楽的な時間を生み出す装置として考えられている楽器の形象を、そこで出される音の内容から、また形式から切り離し(すなわち、演奏が生み出す音楽という出来事そのものから切り離し)、さらにはピアノの鍵盤と人の手との関連性を切断するような装置を、現場で、ローテクで構築することによって、いわば「楽器」を迂回するためのインスタレーションとなっている。ピアノの形象は、見たことのないからくり仕掛けによって、空間的に配分されるなにものかに変容している。

 すずえりが演奏をおこなわない「ピアノでピアノを弾く」は、いつものからくり仕掛けを用いて複数のトイピアノを連結し、一部屋のあちらこちらに配置するインスタレーションによって、こうしたトイピアノに自己言及性を持たせたものである。オートマトン化するトイピアノ。部屋の中央に置かれた大きな黒いトイピアノは、部屋の奥の机の下に置かれた茶色のピアノに接続され、そこからパソコンを介して机のうえに乗ったシェーンハットの黒いピアノを鳴らすと、コイルに吊りさげられたミニチュアピアノを動かしながら、次に押し入れを思わせるコーナー前の床面に置かれた平べったいピアノを鳴らす。電飾がすだれのようにかけられたコーナーは、まさに神棚のあつかいで、そのなかに置かれた二台のピアノも、紅白のめでたさをアンサンブルしている。白いピアノ、赤いピアノを巡回する動きは、この部屋の長押にくくりつけられた回転筒に連結され、ピアノの形をした小さな二台の鉛筆削りを上下させるようになっている。上下する鉛筆削りのピアノは、部屋のすぐ外で台に乗せられた真赤なピアノの鍵盤のうえに落ちて音を鳴らす。ここが終着点となる。一定の時間をおいて中央の大きなトイピアノが鳴らされると、動きがこの回路を一巡する。作品に手を触れてはならないが、部屋には自由に立ち入りができるので、観客はインスタレーションの内部からも一連の出来事を見ることができる。

 連結された動きは、ピアノ前に置かれたロッドの木の手が鍵盤を鳴らす音で聴覚的に確認できるが、それだけでなく、動きが起こっている場所でさまざまなタイプの電球を点灯させ、ミニチュアピアノを動かすことで、視覚的にも感覚できるようにしている。そうした仕掛けのすべてがかわいいのも、ひとつひとつのトイピアノの存在感につながっているようだ。からくり仕掛けは、ローテクな造作で壊れやすく、フラジャイルな危うさを保っている。いつも正確に作動するとはかぎらない。作家として立ちあってはいても、パフォーマンスするすずえりがいないこと、またトイピアノを連結するからくり仕掛けが、チャカチャカと機械的に作動するものではなく、そっと指でつかむようにやわらかなものであること、ときには動かなくなって周囲のものに世話をやかせること、こうした色々なことが、「ピアノでピアノを弾く」を、外から見たインスタレーションとして(だけ)ではなく、出来事を内側から体験するための装置にしている。音楽的な時間を迂回していく装置が、うまく働かないこと、まるでぐずる子どものように要領を得ないことから生まれる周囲のコミュニケーションが、作品そのものの一部になっているといえるのではないだろうか。

 アートスペース「20202」でとびきりの隠れ家的時間を過ごさせてくれるすずえりのトイピアノ・インスタレーション、最終日となる29日(月)には、次回の展示をする舩橋陽とのひきつぎコンサートが予定されている。



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(ツーオーツーオーツー)