2013年7月7日日曜日

高原朝彦 野村あゆみ “Solo Duo Trio” with 本田ヨシ子



高原朝彦 / 野村あゆみ
Solo Duo Trio
featuring 本田ヨシ子
日時: 2013年7月6日(土)
会場: 東京/江古田「フライング・ティーポット」
(東京都練馬区栄町27-7 榎本ビル B1F)
開場: 7:30p.m.、開演: 8:00p.m.
料金: ¥1,500+1drink order
出演: 高原朝彦(10string guitar, recorder) 野村あゆみ(dance)
Guest: 本田ヨシ子(voice)
問合せ: TEL.03-5999-7971(フライング・ティーポット)



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 長年月にわたって、荻窪高円寺グッドマンをソロ演奏の拠点にしてきた10弦ギターの高原朝彦が、諸事情から古巣を離れ、江古田フライング・ティーポットで新たなシリーズをスタートすることになった。ダンサーの野村あゆみは、高円寺グッドマン時代にも高原のライヴにゲスト出演していたが、なにぶんにも会場が極小スペースだったため、ダンスのための動線を確保することができず、立ちん坊になって身ぶりを作るという限定的なものにとどまっていた。新会場での試運転も兼ね、6月におこなわれた「高原朝彦 Solo & Duo」では、野村との共同企画であることが表明され、会場も格段に広くなったものの、このグッドマン形式を踏襲する形でおこなわれたものだった。かたや、本格的なシリーズのスタートとなった今回の「Solo Duo Trio」では、高原と野村の名前が連名となり、毎回ゲストを迎えての公演スタイルも、新たに、ソロ(高原)/デュオ(野村+ゲスト,高原+ゲスト)/トリオ(高原+野村+ゲスト)の三部構成がとられた。いまのところ、ゲストには即興演奏家とダンサーが想定されているらしく、デュオでは<ダンサー+ダンサー>という、またトリオでは<ダンサー+演奏家+ダンサー><演奏家+ダンサー+演奏家>という、いずれもあまりなじみのない実験的なセットが試みられることになる。

 初回のゲストに迎えられたのは、サンプリングとループを使ってヴォーカリーズを何重にも重ね、瞬時にして幻想的なサウンド・タペストリーを織りあげては、すぐに解きほぐしていく本田ヨシ子だった。高原と本田は、本公演に先立つ519日(日)に、蔵前にある「ギャラリーキッサ」で初共演している。一般的に「即興ヴォイス」といえば、器楽の即興演奏をモデルにして、単声でサウンド・モンタージュを構成しながら、言葉の意味を解体したり、先入観に支配されている声のイメージを異化したりする、拡張された声のパフォーマンスのことと理解されているが、本田ヨシ子の場合、電気的なエコーやディレイによって声を魔術化したり、ループを駆使して特徴的な声のモジュールを(原理的には限りなく)増殖させていくところに、彼女らしさが立ちあらわれるように思われる。本田のヴォイスは、意味のわからない言葉で話したり、ささやき声のようになったりするが、けっして演劇的にはならない。この日のセッションでは、野村あゆみとのデュオが、彼女の音楽を全面展開する場所になった。声のモジュールを作るのに、マイクと口の距離は重要であるらしく、織りあげられるサウンド・タペストリーが、聴き手からどのくらいの距離をもった音風景になるのかに、大きな影響を及ぼしていたように思われた。

 本田の作り出すサウンド・タペストリーは、それだけで完結した音塊たりえているが、彼女の即興には、やはり声のメッセージ性に対する郷愁のようなものが残っていて、舞台装置の前で演技する俳優のように、音風景の前景にソロ・ヴォイスを立てることが多いように思われた。というよりむしろ、音風景を作り出す演奏と、ソロ・ヴォイスを展開する演奏とは、いつでも反転が可能で、ソロとして登場したヴォイスが、増殖されて風景化していくなかに、次のヴォイスがソロとして侵入してくるといったらいいだろうか。次々に重ねられていく声のレイヤーは、メモリーをかけて呼び出すことはできても、その順番を変えることはできず、増殖された声はすべて層のようになって堆積していく。この意味では、本田の演奏は、ひとつの声をひとつの色として塗り重ねていくものともいえるだろう。会場の入口付近からパフォーマンスを開始した野村あゆみは、本田が編んでは解きほぐしをくりかえすサウンド空間に静かに侵入してくると、エフェクター類を細かく操作するため、マイクを右手に持ちながら床に座って演奏する本田の前で、おなじように座って演技をしたり、床に置かれたライトの光がステージを横断するなかに、身体をさしこみながらダンスをしていった。

 デュオの部の後半、高原と本田のセッションは、野村のときと違う展開にしたかったのだろう、本田がオフマイクで、また深いエコーをかけながら単声のヴォイスを使ったり、途中でハンドクラッピングを入れたりして注文をつける形になった。いっきにスペースが拡大した会場で、ソロ演奏をさらにダイナミックに、さらに自由に展開している高原は、遠い山の向こうから響いてくるようなエコーのかかった本田のヴォーカリーズに、生き生きとしたリズムを出して応戦、対照的な流れをぶつけるという演奏の妙でアンサンブルの幅を広げた。最後のトリオ演奏では、ダンスのあるなしによる高原の演奏の違いに注目させられた。演奏家ふたりの音数は、音楽セッションよりずっと抑制されたものとなり、重量のあるダンサーの動きをよく迎えるものとなった。野村は本田の対面におかれた椅子からスタート、会場の全面を移動しながら、上腕をつかんだり、胸を突き出したり、手を高く挙げたりといった彼女ならではの特徴的な身ぶりをつなげて、ダイナミックな動きを構成していった。本田は、演奏の前半、ミステリアスな雰囲気をたたえたヴォーカリーズに徹していたが、最後のクライマックスでは、宇宙空間に響きわたるアフロディーテの声とでもいうのだろうか、ほとんど宗教的なオーラを発する幻想的なコラールを編みあげていた。




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